IL DEVU クラシック界のスーパー・グループが待望のリサイタルを久々に開催  重量感たっぷりの音世界でオーディエンスを包み込む

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コロナ禍を乗り越えて、「Hakuju場所」を無事開催

 音楽の楽しさをとことん伝えるクラシック・ヴォーカル・グループ、IL DEVU(イル・デーヴ)が5月20日と22日に、東京・渋谷Hakuju Hallで「IL DEVU リサイタル~LOVE♡IL DEVU~」を開催した。
 IL DEVU は望月哲也(テノール)、大槻孝志(テノール)、青山貴(バリトン)、山下浩司(バスバリトン)という日本トップのオペラ歌手たちと、名ピアニストの河原忠之の5人で結成され、2011年にコンサート・デビュー。不動の顔ぶれのまま今年で満11周年を迎えた。これまで『DEBUT』、『NUKUMORI』、『LOVE CHANGES EVERYTHING』といったアルバムを発表し、メンバーの総重量が約500kg(0.5t)であるというのも納得のスケール大きなパフォーマンスと、軽妙で時にコミカルなMCで老若男女のファンを魅了している。
 そのIL DEVU が、コロナ禍で思うような活動ができない日々を乗り越えて、ついに「Hakuju場所」に踏み切ってくれたのはとても嬉しい。2019年10月に行なわれた同ホールでの前回公演では、2日目が大型台風で交通機関に影響が出たこともあり中止となり、翌20年10月に再度日程が決まれたもののコロナ禍で延期となり、やっと今回、ついに、満を持して開催できたのだ。デビュー・アルバム発表間もなかった頃のIL DEVUを、筆者が初めて聴いた場所もHakuju Hallだった。独特の形状を持つ壁と高い天井を持つホールと、豊かなヴォーカルが共鳴して、歌に全身が包まれているような印象を受けた。覚えているのは「ロマンチストの豚」(作詞;やなせたかし)にまつわるシーンだ。まずMCで曲名を読みあげて笑いを誘い、その後、まさに至芸というべき歌で、感動を引き出す。歌が終わった後、少し静寂があって、夢から覚めたかのようにオーディエンスが熱烈な拍手を始めた場面が忘れられない。

ビリー・プレストンからアンパンマンまで IL DEVUならではの味付けがてんこ盛り

 今年の「Hakuju場所」は、第1部が「~♡愛すべき歌♡~」、「~♡♡ア・カペラ♡♡~」、第2部が「~♡♡♡アルバム・ステージ(これまでのアルバムから2曲ずつ選曲)♡♡♡~」、「~♡♡♡♡私のとっておき(各メンバーの推薦曲)♡♡♡♡~」という、古参ファンにも新たなファンも揃って“なるほど、そうきたか”と身を乗り出したに違いない構成だ。「~♡愛すべき歌♡~」では各メンバーがソロで歌い(河原は演奏し)、もうこの時点でラフマニノフ「「12の歌」op.14より第8曲“ああ、悲しまないで”」から山田耕筰「赤とんぼ」までと、いきなり時代も国境も超えてしまう。「~♡♡ア・カペラ♡♡~」では、「ソーラン節」がひときわ熱かった。一種のワーク・ソングということであるからか、リズム・アンド・ブルースのステイプル・シンガーズ、ジャズのビリー・ハーパーなどアフリカ系アメリカ人もとりあげているし、神野美伽も猛烈にグルーヴする歌唱を残している。その「ソーラン節」を、あくまでもクラシック、声楽風味を残しつつ、小気味よく解釈していくIL DEVUの底力に唸らされた。第2部も、「アンパンマンのマーチ」、「糸」、「ユー・アー・ソー・ビューティフル」(ビートルズやサム・クックと共演したビリー・プレストンが作曲、ジョー・コッカーの歌でヒット)など、カテゴリーを超え、ただそこに良い歌があるだけ的世界が広がる。そしてもうひとつ気づいたのは、IL DEVUの歌う楽曲は、歌詞がとてもポジティヴであること。心優しい選曲の中にある、歌+メロディ+歌詞+ピアノの見事な融合が、並外れたぬくもりと暖かみの世界へと聴き手をいざなってくれるのだ。

(原田和典)

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