青空、海、そしてロカビリー! ロックの原点を自然とともに楽しむ「三浦ロカビリーまつり」が盛大に開催
■文・写真 / 原田和典
入魂の歌と演奏、抜群のDJプレイ、熱狂的な観客の反応。その3つの要素が、まさに小春日和というべき快晴の中でぶつかりあい、その場にいる者すべてに快い汗をかかせた。
11月27日の午前11時から午後5時にかけて、神奈川県三浦市三崎の「うらりマルシェ」2階の展望デッキライブイベントで「三浦ロカビリーまつり」が開催された。ロカビリーとは、ロックの原点に位置する音楽といえばいいだろうか。1950年代のアメリカで、白人のカントリー&ウェスタンに黒人のリズム&ブルースが融合し、やたら新しく刺激的でかっこいい響きが生まれた。そしてそれはヨーロッパや日本にも普及した。個人的には、第二次世界大戦後の若者が初めて音楽上で達成した自己表現がロカビリーだったのではないかとも感じている。『Rock-A-Billy Dynamite』という大全集的40枚組CDを聴いていても、1曲がだいたい2分前後で終わる。刹那に賭けるというか、瞬間に燃えつくす感じがたまらなく魅力的だ。
最初に登場したのはギタリストの山口憲一と、総合MCを務めたバーレスクダンサーのナホコロール。「ロカビリーまつり」が構想半年の末に実現に至ったこと等を述べ、結成10年を迎える地元三浦の「ガレージバンド」をステージに迎え入れた。オープニングは「ブルー・スエード・シューズ」。カール・パーキンス生誕90年、エルヴィス・プレスリー没後45年でもある2022年、「ロカビリーまつり」の開幕にはこの曲以外には考えられない。いきなり心をつかみながら、キャメルクラッチの「Come’n Rock’a Baby」等もとりあげた。
続いては1990年にロカビリーバンド「MAGIC」でメジャーデビューした山口憲一率いる「山口憲一&ロカビリー・スペシャルズ」。なんと太く迫力のある音色であることか。加えて、グレッチ・ギターの楽器上部にあるセレクター(スイッチ)を素早く切り替えて、細かなニュアンスを付け加えるのだ。10月下旬に亡くなったジェリー・リー・ルイスへの追悼をこめた「火の玉ロック」等を弾き歌った後、かつて同じ所属事務所だったというBLUE ANGELのヴォーカリスト、浦江アキコを迎えた「HAPPY BIRTHDAY」、THE GRETSCH BROTHERSで山口と共に活動する日野勝雄を迎えた「サマータイム・ブルース」等、盛りだくさんのセッションを展開。展望デッキは、いつしかダンスフロアとなった。MAGICが93年に発表した「天使のジェラシー」に当時を重ね合わせたオーディエンスも多々いらっしゃったことだろう。
「TIGERLILY」は1999年結成のグループ。このところはギター&ヴォーカルのジュンコ、ベースのヒロシのふたりで活動している。このヒロシのベースがとんでもなく躍動的だった。マグネットタイプのピックアップをはりつけず、しかも50年代のベーシストのようにガット弦を張っているあたり、彼の大きなこだわりなのだろう。ジュンコの声質や英語も滑らかで快い。ジャニス・マーティン「マイ・ボーイ・エルヴィス」、ワンダ・ジャクソン「フジヤマ・ママ」、オリジナル「Such a Blue」等を楽しませた。
「キャメルクラッチ」は1987年に結成、つまり今年で35周年となるベテラン・グループだ。サックス奏者にCandy Non(「ガレージバンド」のギタリスト、西上床克浩の愛娘)を迎え、さらなる飛翔を目指している。チャビー・チェッカーの「レッツ・ツイスト・アゲイン」に始まり、オリジナルの「炭火焼鳥ろっか!のテーマ」「キミはTEDDY GIRL」なども織り交ぜながら、観客を文字通りのロカビリーパラダイスにいざなった。トリプル・ギター編成による、音の分厚さにも魅了された。
この日のオーディエンスは本当に年齢層が広かった。子供たちがキャッキャ言いながら踊っていたのが、Jポップをロカビリー化する「シツレイ・キャッツ」のステージだ。とてもコミカルなパフォーマンスだが、歌も演奏もアレンジも磨き抜かれている。エディ・コクラン「カモン・エヴリバディ」とAKB48 「会いたかった」がこんなに“合う”とは予想をはるかに超えていたし、強烈なブギーと化した「飾りじゃないのよ涙は」、マイナー・ブルース風味あふれる「つけまつける」にも頬が緩んだ。
夕方に近づき、空中でトンビがくるりと輪をかく頃に登場したのは、全日本ロカビリー普及委員会の会長も務めるビリー諸川。筆者は著書「昭和浪漫ロカビリー」における、先人ロカビリアンたちへのリスペクト(清野太郎に関する、これほどまとまった文を読んだことはない)にも大いに感銘を受けている。この10月に亡くなったロバート・ゴードンに捧げた「ロカビリー・ブギ」、ジョニー・エイスの「プレッジング・マイ・ラヴ」(エルヴィス・プレスリーのラスト・シングル「ウェイ・ダウン」のB面)、満65歳を迎え“この年齢になって歌えるようになりました。ロカビリー風にリズムを立たせて歌います”という前置きからの「マイ・ウェイ」、45年前からの知り合いであるというシャネルズ(最初期はシャ・ナ・ナのコピーバンドをしていたという)の「ランナウェイ」などをアコースティック・ギターでひとり弾き語った。ビリーの呼びかけに応え、ラストは出演者総出のセッションへ。「ブルー・スエード・シューズ」「ジョニー・B・グッド」で乗りまくった後も、観客の熱狂は収まらない。最後にビリー諸川と山口憲一が大フィーチャーされた「シェイク・ラトル・アンド・ロール」が奏でられ、すさまじい盛り上がりのなか、ロカビリーまつりは幕を閉じた。