瑞姫の浪曲を聴く会  名門・浅草木馬亭で、アルバム『ホームグラウンド』発売記念ライブを開催

Topicsevent,traditional culture

■取材・文 / 原田和典 

一席30数分の物語に没入する愉しみ

 6月25日、東京・浅草木馬亭で「瑞姫(たまき)の浪曲を聴く会」が開催された。瑞姫は1993年9月に太田英夫(95年、二代目東家浦太郎を襲名)に入門し、同年12月に初舞台(当時の芸名は「太田ももこ」)。2011年に瑞姫と改名し、ひとり浪曲ショウ、人形劇や落語とのコラボレーション、相撲甚句、江州音頭などの分野などでも喉と感性を磨いてきた。2020年には、山中一平といちばけいをプロデューサーに迎えたファーストアルバム『河内音頭櫻川と黒鷲~幡随院長兵衛傳より』を発表。今年2月にリリースされた『ホームグラウンド』(e-onkyo music、moraなど、ハイレゾでも配信中)は自身初めてとなる浪曲アルバムで、ぼくは「ミュージック・マガジン」誌の月評でこのアルバムを聴き、すっかり心がはずみ、これはぜひともライブを見なければと思っていたのだ。
 「お笑い浅草21世紀」の一員でもある猪馬ぽん太のMCを受けて、いよいよ瑞姫が登場する。ピンクの着物、白いテーブルかけは、去る5月8日に亡くなった師・二代目東家浦太郎の形見分けだ。演目は「浪曲 関取稲川重五郎江戸日記」、アルバムでは31分41秒を要していた。つまりビートルズ『プリーズ・プリーズ・ミー』(全14曲で31分59秒)やアントニオ・カルロス・ジョビン『ウェイヴ』(全10曲で31分38秒)が丸ごと、この「浪曲 関取稲川重五郎江戸日記」の尺に入っているわけだ。もちろんライブだからリテイクもフォールス・スタートもなし、一度始まってしまえばエンディングまで突き進むのみ。そのあたりは飛行機の離着陸に似ているかもしれない。「上方から江戸にやってきて連戦連勝を続けてはいるものの、それが江戸っ子にはてやんでえちっとも面白くねえというわけか支持されず、心が折れて引退を考えている力士」、「それを励ます乞食」、「その情景を見て、とある策略を立てる魚河岸の若者」、「物語をかみ砕いてリスナーに説明するナレーター」の4サイドを、声の抑揚、表情や顔の向きをフル活用しつつ、瑞姫は表現する。曲師(三味線奏者)は、名コンビとうたわれる虹友美が担当。ダイナミクスに富むプレイ、合いの手も印象に残った。

江戸時代のサクセス・ストーリーが、令和の東京に放たれる

 中入り後、猪馬ぽん太のMCに続いて始まったのは、「浪曲 亀甲縞治兵衛」。着物もテーブルかけも替えての一席だ。伊勢国(ほぼ、いまの三重県)のうだつの上がらない男が新しい織物「亀甲縞」を提案、当初はまったく火がつかなかったが、ある日「市川團十郎が江戸から来ている」との情報を得て意を決して面会を申し込んだところ、そこからサクセス・ストーリーが始まって・・・。“マーケティングリサーチ”など西洋の言葉も挿入しながら、熱の入ったパフォーマンスを、やはり三十数分続けた。虹友美も、ネックの上で縦横無尽に指を動かしていた。なお瑞姫は7月7日、NHK-FMの番組「浪曲十八番」で「壺坂霊験記」を披露する。