笠置シヅ子やフルトヴェングラーを、発売当時の78回転盤で楽しむ!                  「明治・大正・昭和 レコードと暮らし」展の関連企画でレコードコンサートを開催

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■取材・文 ・写真/ 原田和典 

“蓄音機で聴くレコード”がもたらす快感

音楽史家・毛利眞人氏(左)と「ぐらもくらぶ」プロデューサー・保利透氏(右)

 SPレコード(78回転)や戦前型マイクを展示する「明治・大正・昭和 レコードと暮らし」展が、読売新聞東京本社と「ぐらもくらぶ」の共催により、東京・大手町の読売新聞ビル3階ギャラリーでおこなわれている(7月29日まで)。6月24日に、その関連イベント「SPレコードコンサート」が開催され、音楽史家の毛利眞人と「ぐらもくらぶ」プロデューサーの保利透が楽しいひとときを届けた。
 いきなり個人的な話だが自分のSPレコード体験は、いまから二十何年前、「オーディオ・パーク」という復刻/新録レーベルのオーナーであった寺田繁氏のもとを訪ね、ルイ・アームストロング、消防5人組+2(ファイアーハウス・ファイヴ・プラス・トゥー)、エルヴィス・プレスリーなどを聴いたことに始まる。なんという生々しさ、気持ちよさなのだろうと思いつつ、ターンテーブルの上でひたすら高速で回る盤面をのぞきこんでいたら、自分も目を回しそうになったことを思い出す。以来、SPは自分にとって、音がスックと立ち上がってくる実に爽快なメディアという印象がある。
 場内に運び込まれた再生機器は「ポータブル型蓄音器(戦後製造)」、「店頭試聴用電気式蓄音器(戦後製造)」の二種。ビル・ヘイリー&コメッツ「ロック・アラウンド・ザ・クロック」を“電気式蓄音器”で、霧島昇・李香蘭・松原操「さうだその意気」を“ポータブル型蓄音器”でかけた後(保利の「ねじ回し」も見ものだった)、いよいよ本題に入る。毛利の軽妙な語り口、保利の手際よいレコード針調整がすがすがしい。
 「上海」「スター・ダスト」、「ジーラ・ジーラ」はそれぞれ、6月24日が命日の美空ひばり、カルロス・ガルデルにちなむセレクション。加えて、ちょうどこの日に来年秋のNHK朝ドラのモデルになることが発表された笠置シヅ子のレパートリーから「ジャングル・ブギー」も聴くことができた(たまたま選曲したところに、この知らせが飛び込んできたのだという)。ジャズ関連では、ベニー・グッドマンの大定番「シング・シング・シング」も通して聴くことができた。“通して”というのは、この曲はAB面で一曲だからだ。しかも当時主流の25㎝ではなく、30㎝盤として発売された。約9分の長尺だが、本当によく考えられたアレンジ、パフォーマンスだと改めて唸らされた。タイトルこそ“シング”とはいえ、布団も枕もいらない。とてもじゃないが寝てはいられない、目がリンリンとしてくる。盤を裏返してから、ジュディ・オング「魅せられて」的なメロディを合奏するパートがあり、その後ハリー・ジェイムズのトランペットとジーン・クルーパのドラムスがスリリングなやりとりに興じる。クルーパのフロア・タムの胴の深み・厚みまでが伝わってきそうな録音状態に、1937年当時のテクノロジーの凄みを感じた。

与謝野晶子の肉声に触れる

 もうひとつ強く印象に残ったのは、与謝野晶子の朗読「源氏物語 桐壺」。弦楽四重奏団“鈴木クワルテット”との共演だ。朗読は特にリズミカルというわけではなく、しかも声は加齢のせいか枯れ切ってしまっている感じだ。だがこれがいい。フリーフォームのボソボソしたしゃべりと、弦カルの響きは、合ってるんだか合ってないんだか。たとえばこれがケネス・パッチェンなら隙もなくバンドに合わせに行くはずだが、与謝野晶子はあくまで淡々といく。チェロのピチカート(指弾き)と与謝野がデュオ状態になる箇所が、むちゃくちゃスリリングだった。なお“鈴木クワルテット”のひとり鈴木鎮一は、鈴木メソード(ぼくはこのメソードがいかに素晴らしいものであるかを、ピアニストのヴィジェイ・アイヤーからきいた)の創始者で、その甥はジャズ・ベーシストの鈴木良雄である。
 ほかにもウィルヘルム・フルトヴェングラー、ディック・ミネ、二村定一、川畑文子などなど、出るわ出るわ。往年のレコーディングを、LPやCDとして復刻されたものではなく、当時新譜として出たときの盤そのままで聴く機会は、実のところ、非常に少ない。「みんな、出た時は新録だったんだよなあ」と思いながら、胸を熱くしつつ、このレアな機会を楽しんだ。

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