鎌倉時代が現代に舞い降りた。東京都大田区の厳正寺で、「水止舞」700年の記念奉納が開催! 

Eventstraditional culture

■文:瀬戸優  写真:原田和典

 猛暑の7月9日、東京都大田区の柳紅山 厳正寺(ごんしょうじ)で「水止舞」が開催された。今年は、元享3年(1323年)から700年の記念奉納でもある。
 「水止」は“みずどめ”、もしくは“すいし”と読む。昭和38年(1963年)に東京都無形民俗文化財に指定された伝統芸能。起源は遠く元亨(げんこう)元年(1321年)までさかのぼるという。現在の大田区にある大森町地域が大干ばつに見舞われた際、厳正寺の住職が、わらで龍の像を作って雨乞いの祈祷をした。しかし効果が強すぎたのか、その2年後に長雨が続き田畑流出などの水害が起きてしまった。そこで住職が獅子の仮面を3つ作り、農民がホラ貝を吹き、太鼓を叩き、舞いを繰り広げたところ、雨はすっかり止んだという。

水止舞は、雨乞いの儀式「道行(みちゆき)」からはじまり、雨止めの儀式「水止舞」の二部構成。龍神=雨乞い、獅子=水止である。

 13時、大森第一小学校から厳正寺までの「道行」がスタートした。水の神である雄雌2匹の龍神を表すのは、わらの縄を渦巻き状に巻きあげた筒のなかに入り込んだ男性。龍神は5人の男たちに担がれ、厳正寺に向かいながら水をかけられ、その度に、ほら貝を吹く。その高らかな音色は、龍神の雄叫びであり喜びの表現だ。道路わきに用意されたバケツから豪快に、水がぶっかけられる。見ている側もびしょ濡れになるのだが、水を浴びれば浴びるほど、道行は盛り上がり、人々は高揚する。龍神を元気づけるための水で、人々も活気づけられるのだ。この龍神に続くのが、牡丹が描かれた扇子を持った子どもたち、笛の演奏家たち、花笠をかぶり、ささら(打楽器)を鳴らす「花籠」らである。

 30分ほどかけて厳正寺に到着し、龍神は特設の舞台に運ばれる。龍神を巻いていた縄は解かれ(この時点で龍は獅子となる)、土俵のように並べられ、「雨乞い」から「雨止め」への儀式へと続く。そして、全6編からなる、舞が始まる。赤い面の雄獅子、金の面の雌獅子、黒い面の若獅子。繊細な笛の音色、獅子たちのおごそかな動き。続いて獅子は観客に歩み寄り、無病息災、良いことがありますようにという願いを込めて、頭上に獅子を乗せる。路上での激しさとは一転、実に端正な儀式が繰り広げられた。

 「水止舞」は昭和12年(1937年)の支那事変を受けて中止され、昭和29年(1954年)に再開。当時は門外不出の伝統芸能だった。今日では多くの人々が集まり、今年の夏が無事に訪れた喜びを祝い、無病息災を願う。人々の純粋な願いや恐れ、感謝の気持ちが引き継がれているのである。

Eventstraditional culture

Posted by editor