「瑞姫の浪曲を聴く会 夏の独演会」開催。初の浪曲アルバム『ホームグラウンド』収録の演目を、グルーヴ感たっぷりに披露
■文:原田和典
9月には河内音頭アルバムと、浪曲アルバムを同時リリース
今年もこの時がやってきた。1970年開館の、年季しみこむ場内に、人間の普遍的な機微がグルーヴ感たっぷりに描き出される。
6月30日、東京・浅草木馬亭で「瑞姫の浪曲を聴く会 夏の独演会」が開催された。今回披露されたのは、「浪曲 関取稲川重五郎江戸日記」と、「浪曲 亀甲縞治兵衛」。つまり、瑞姫初の浪曲アルバム『ホームグラウンド』(2022年)に収録されていた演目だ。レコーディングの時点で、この2編は瑞姫の十八番としての声が高かった。それから数年を経て、今回、これらが現在の瑞姫の声、表現、表情で楽しめる意義は大きい。もちろん曲師(三味線奏者)は虹友美。迫力に富むPAもあいまって、日ごろ外国のポピュラー・ミュージックを聴くことが多い筆者も時間を忘れて浸りきった。
「浪曲 関取稲川重五郎江戸日記」を聴いて筆者が感じるのは、“強すぎる者の悲哀”もしくは“よそ者の孤独”。稲川重五郎は上方の力士で、もう一花咲かせようと江戸にやってくる。だが、連戦連勝してしまうので、そこが江戸っ子には面白くない。だから人気が盛り上がらない。なので稲川は廃業を考える。が、はずみで乞食にケガをさせてしまい、優しく手当てをしているうちに、その乞食から「やめないで」と言われ・・・そこからの展開がまた、面白い。その光景を見ていた魚河岸の若者頭が、あえて乞食に扮して、稲川の優しさを本物かどうか確かめてゆく。さあ、この連勝力士の心根は果たして? さらに物語はドラマティックな展開を見せていく。
「浪曲 亀甲縞治兵衛」の主人公・杉立治兵衛は、足軽あがりの男で周りからなめられていた。が、ある日、彼は藩の財政を立て直すための案として、名産の綿を使った「亀甲縞」の生産を提案する。そして販売を一任されることになるのだが、ここからが新たな辛苦の始まりであった。無名の、人気のない商品だから、問屋もこちらの望む値段で買い取ってはくれない。途方に暮れていたところ、江戸から人気役者の一座が来るというのではないか。そこで治兵衛はひらめく。セールスマン、プロモーターとしての才覚が開花していくさまを、実にありありと、瑞姫は表現する。
中入りでは、錦糸町河内音頭実行委員会の運営やZASHIKI RECORDS主宰プロデューサーである、いちばけいが、実にためになる話を聞かせてくれた。その口調は、ポップスと浪曲の間に橋を架けるかのように親しみやすく、瑞姫のこれまでの軌跡、河内音頭と浪曲の関係などが実にわかりやすく示された。
瑞姫は7月26日に大阪・堺筋本町SENBAプレ~ス2にて「瑞姫の浪曲寄席」を開催、28日には神戸三宮スターティング・オーヴァーにて「山中一平河内音頭ライヴ」に参加、8月28日と29日には錦糸町河内音頭に登場。ほか盆踊りなどもあるので、情報はウェブサイトを参照してほしい。また、9月上旬に河内音頭アルバム『TAMAKI』、浪曲アルバム『浪曲狸(たぬき)』を同時発売予定。