クリスマスに味わう「品川汁」。年末の風物詩「品川蕪品評会」が晴天の中、盛大に開催。スペシャル・ゲストの歌唱も!
■文 / 原田和典 写真 / 瀬戸優
第9回目となる「品川蕪品評会」(主催:東海道品川宿なすびの花)が、12月25日に東京・品川神社で開催された。金賞・銀賞・銅賞・特別奨励賞の発表に加え、品川蕪(品川カブ)入りの「品川汁」の振る舞い、講談や太鼓演奏、さらにスペシャル・ゲストによる歌唱など、農業関係者のみならず、食べ物好き、音楽好きにも訴える内容で楽しませた。
品川蕪は、江戸時代に品川宿周辺で栽培されていた蕪の一種。1804年(文化元年)発行の博物誌『形成図説』にも登場しているという。長い葉が特徴で、主に漬物や汁物の具として食べられていたが、江戸が東京になった頃から生産が減り、“幻の野菜”になってしまった。そこで奮起したのが、「東海道品川宿なすびの花」代表の大塚好雄さん。2006年から品川蕪の痕跡を探し始め、08年から栽培すると共に、学校、農園、愛好者などに種子を配り、品川蕪の普及に情熱を傾けている。品川蕪はひとつひとつが独自の形を持っていて、のびのびしているもの、丸っこいもの、まるで大根のように見えるものまで、さまざま。特徴のひとつである長く、緑の鮮やかな葉っぱも含めて、みな、個性的だ。そこが非常に心に訴える。このエモーションは、量販店で売られている、どれも同じ形をした野菜に接している時には起こらない類のものだ。
品川区の森沢きょうこ区長の激励の挨拶のあと、品川神社でお祓いがおこなわれ、午前10時から「開会の儀」へ。その後、田辺一乃師匠による無類に楽しい講談、主催者や来賓の挨拶へと続く。審査が始まろうという頃、食欲をそそる香りが神社内に漂ってくる。式が始まる遥か前から、有志によって調理されていた「品川汁」のプレゼンテーションだ。コロナ禍もあって、訪れた人々にふるまわれるのは実に3年ぶり。巨大浴槽のような鍋に人参、茸、大根、あぶらげ、品川蕪などが大量に入れられ、江戸時代には擦った大豆が入れられていたとのことだが、この日は豆乳を投入。品の良い味噌味と、快いにがみのある蕪の葉(最後の最後に入れる)が実によく合う。ちょっと強めの風が横から吹いてきたなと上を見たら、雲一つない青空だ。そんなシチュエーションの中で、老若男女の参加者と共に味わう「品川汁」は、初参加の筆者の中にあった心の固さを、確かに溶かした。
5人の審査員(公平を期すため大塚さんは参加しない)が審査をしているあいだ、荏原流れ太鼓ひびき會が3曲を演奏する。幅広い年齢層で構成されたアンサンブルで、バチを上げ下げする時の腕の動きが実にしなやか。さらにスペシャル・ゲストとして歌手の田代美代子が登場、いっそうの華を添える。“和田弘とマヒナスターズ”と共演した大ヒット曲「愛して愛して愛しちゃったのよ」で一世を風靡したとはいえ、ルーツのひとつにはシャンソン(石井好子に学んだ)がある。この日は「~愛しちゃったのよ」に加え、ミッシェル・サルドゥー「歌おう愛の歓びを」、シャルル・アズナヴール「おお、我が人生」などのシャンソンを披露した。
すっかり満ち足りた後に、いよいよ各賞が授与される。銅賞は台場小学校(エントリーナンバー6)、銀賞は福栄会(エントリーナンバー9)、金賞は品川学園(エントリーナンバー7)、特別奨励賞には仙台在住の村山隆夫さんが輝いた(エントリーナンバー21)。品川区に住んでいる孫から種子をもらい、栽培したという。受賞した子供たちも元気一杯にはしゃいでいた。
「蕪フェス」と呼びたくなるほど中身の濃い品評会だった。「東海道品川宿なすびの花」は来年、NPO団体となる予定。江戸東京野菜リヴァイヴァルの波は今後、さらに大きなものとなるに違いない。