SPレコードから味わう音楽の快感! 「明治・大正・昭和 レコードと暮らし」展の関連企画で座談会を開催

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■取材・文・写真 / 原田和典

SPレコード鑑賞+トーク+生演奏を、真夏の夜に堪能

バンジョー奏者の青木研、「ぐらもくらぶ」代表の保利透、グラフィックデザイナーの岡田崇

 SPレコード(78回転)や戦前型マイクを展示する「明治・大正・昭和 レコードと暮らし」展が、読売新聞東京本社と「ぐらもくらぶ」の共催により、東京・大手町の読売新聞ビル3階ギャラリーでおこなわれている(8月19日まで会期延長)。7月22日に、その関連イベント「レコード愛好家座談会」が開催され、「ぐらもくらぶ」代表の保利透、グラフィックデザイナーの岡田崇、バンジョー奏者の青木研が登場した。
 イベントは3人がそれぞれ所有するSP盤を持参し、興味深いコメントと共に紹介するコーナーから始まった。CD2枚組+ブックレットの大作『レイモンド・スコット・ソングブック』の監修・解説も務めている岡田崇が持参した1曲目は、スコットの「パワーハウス」。ぼくはクラリネット奏者ドン・バイロンの演奏でこの曲を知って忘れられなくなり、続いてスコットのCD『Reckless Nights and Turkish Twilights』を入手して、“これが本家本元なのか”と感じ入った。それをSP盤で聴けるのは快感のひとことに尽きる。夭折の鬼才アレンジャー、杉井幸一の「木曽節」が流れたのも嬉しかった。レイモンド・スコットからの影響を指摘されて聴くと、なるほど、耳からうろこが落ちた気分になる。いきなり楽しく学ばせてもらった。
 保利透のコーナーでは、第二次大戦前の超売れっ子作曲家・江口夜詩の素晴らしさについて触れ、彼が作編曲した「知らなきゃ恥だよ本當だよ」(歌:音丸、佐々木章)をかける。続いては映画『秋刀魚の味』や『天国と地獄』等にも出ていた俳優・中村伸郎が昭和18年(山本五十六戦死、日本軍アッツ島守備隊玉砕の年)に残した、東京都のごみの量を半分に減らそう呼びかけたレコード。“レコードとは記録なり”との言葉を改めて思い出す。
 青木研は小学生の頃、二村定一の「青空」のSPレコードを聴いて、リズムを刻むバンジョーの音色に惹かれたのだという。「電気が使われていない頃の録音を、電気を使わない機械で聴こう」ということで、所蔵の手回し式蓄音機を持参して盤を再生した。1902年(明治35年)録音というから今から120年前の「ウィリアム・テル序曲」(演奏:Vess L. Ossman)の、なんともいえない瑞々しさにも心を奪われた。ボリューム装置などなく(つまり音量の調整ができない)、スピーカー代わりのラッパから出てくるサウンドがすべて。潔いではないか。

ジェローム・カーン作の古典的ナンバーが目の前で蘇る

バンジョー奏者 青木研

 その後、「声の郵便」(保利いわく、今なら“LINEのボイスメッセージに相当するのでは”とのこと)、ぐらもくらぶの力作新録音『大土蔵録音2020』『大土蔵録音2021』のエピソードを経て(保利はプロデューサー、岡田はデザイナー、青木は音楽監督兼演奏家として関わっている)、青木のバンジョーの生演奏へ。曲は「フー?」、1925年にジェローム・カーンが書いたナンバーだが、同じ作者でも「煙が目にしみる」やコロナ禍でカヴァーが一気に増えた感のある「ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング」ほどには、今に伝わっていないメロディというのが正直なところかもしれない。これを青木は美しく軽やかに、単音とコードを絶妙にブレンドさせて、楽器でうたいあげた。聴いているうちに自分は、“子供の時に初めて聴いた曲が「フー?」だった”と語っていたジャズ評論家の瀬川昌久氏(昨年、97歳で逝去)のことも思い出してしまった。
 文頭で触れたように、「明治・大正・昭和 レコードと暮らし」展は8月19日まで会期延長される。内容の変更も行なわれ、戦時中に発売されたレコードの数々も展示されるとのことだ。

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