令和4年度(第77回)文化庁芸術祭参加公演「瑞姫の浪曲を聴く会 特別編 華麗なる姉弟対決!!」が、盛大に開催
■文・写真 / 原田和典
四者四様の味わいを、極上かつ迫力の音響で満喫
令和4年度(第77回)文化庁芸術祭参加公演「瑞姫の浪曲を聴く会 特別編 華麗なる姉弟対決!!」が東京・浅草木馬亭で10月21日に開催された。瑞姫(たまき)は1993年9月に故・太田英夫(95年、二代目東家浦太郎を襲名)に入門し、同年12月に初舞台(当時の芸名は「太田ももこ」)。2011年に瑞姫と改名し、2020年にファーストアルバム『河内音頭櫻川と黒鷲~幡随院長兵衛傳より』、2022年にセカンドアルバム『ホームグラウンド』を発表。「ミュージック・マガジン」等の音楽雑誌でも注目を集めている。
今回の公演は、二代目東家浦太郎の弟弟子たちとの“競演”。瑞姫のあいさつの後に登場したのは、28歳で二代目東家浦太郎に入門したという東家一太郎だ。母音を力強く伸ばし、そこに細かな抑揚をつけるパフォーマンスに、ぼくはゴスペルの“メリスマ”に通じるものを感じて、すっかり気持ちよくなった。演目は『谷風長屋の土俵入り』(曲師:東家 美)。幕内から重量に落ち込んだ佐野山の悲哀、四十六貫(約172.5kg)を誇る横綱・谷風の迫力等、まるで目の前に浮かびあがってくるかのようなリアリティである。「自分自身が努力して成果をあげて、その道の第一人者になった姿を見せることこそ、最大の親孝行」的なくだりに、ああなるほどそうだと、ひたすらうなずいた。
いっぽう東家孝太郎は、アンデルセン物語をアレンジしたという『パンを踏んだ子・令和日本版』(曲師:沢村まみ)で、ぐっとコンテンポラリーに迫る。主人公は読者モデルとして小金を稼ぐ美少女インゲル。しかし彼女は動物虐待に喜びを見出し(しかも、いじめるために犬を飼っていた)、人によくしてもらっても感謝ひとつ示さない。ある時、もちをもらったが、「水たまりで靴を濡らしたくない」とのことで、そのもちを水たまりに投げてクッション代わりに踏んづけた。そのとたん、インゲルは地下世界に吸い込まれていくのだが・・・・目つきと声色と音域の広さでインゲルの外道ぶりを存分に表現し、さらに口琴(英語ではジューズ・ハープという)も奏でる東家孝太郎の多芸にひきつけられた。
東家恭太郎は、“あきれたぼういず”の歌に感動し、そこから広沢虎造を知り、58歳で浪曲の道に飛び込んだ。『神崎与五郎東下り』(曲師:水乃金魚)は、いわゆる忠臣蔵にまつわるエピソード。顔の角度や表情で各キャラクターを明快に表現すると同時に、絶妙な間をとって「この先はどう展開するのだろう?」的なワクワク感を与えることも忘れない。酒をドンブリにトクトクと注ぐシーンで曲師が聴かせた、弦をミュートしつつのグリッサンドも実に効果的だ。
中入り後、いよいよ瑞姫のセクションが始まる。盲目の浪曲師・浪花亭綾太郎の十八番としても知られる「壺坂霊験記」の、4年ぶりの再演であるという。盲目の夫の目が良くなるように、毎晩欠かさず願掛けに行っていた妻と、それを「毎晩出かけるのはおかしい。ほかに男ができたんじゃないか」と疑う夫。そのあたりの心の齟齬をきめ細かに、低めで唸るような声から目の前に語り掛けるような優しい高音までを使い分けつつ表現し、妻の真意を知らず一方的に疑ったことを深く恥じた夫が辞世へ向かってゆく衝動をスリリングに描写する。
公演を通じて、瑞姫のアルバム・プロデューサーも務める、いちばけい(ザシキレコーズ)がPAを担当。三味線の力強い音がしっかりクローズアップされ、声が主で三味線が伴奏というよりも、声と三味線の丁々発止に満たされる一夜となった。
瑞姫は11月27日、「瑞姫(たまき)の浪曲を聴く会 今年もたっぷり聴き納め!!」を浅草木馬亭で開催。虹友美を曲師に、35周年を迎えるだるま食堂をゲストに迎える。