ロングラン上映の予感。鈴木太一監督と野辺富三による不器用な快作『みんな笑え』

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■文:原田和典

 2月8日の公開以来、評判に評判が重なって、延長上映や上映館の増加が続いている作品、それが『みんな笑え』だ。主人公は落語家の太紋。往年の名噺家を父に持ち、薫陶も受けたはずなのだが、うだつのあがらないまま50歳になってしまった。その父は認知症のために引退して久しいものの、アグレッシヴなパワーだけはありあまっているし、脳内ではときおり現役時代の高座がフラッシュバックしているようだ。太紋はアルバイトをしながら時おり寄席に出て(父の芸を愛した人の好意だろう)、また今日もウケなかったなと思ったりする段階ももう通り越した感じでダラダラと家に帰って、アグレッシヴな父の介護をどうにか続けている。

 同じころ別の場所では、女性漫才コンビのひとりが悩んでいた。ネタが思い浮かばないし、テレビ番組の上層部の受けもよくない。こんなことを続けていてどうなるのだろうか。

© 2024「みんな笑え」製作委員会
© 2024「みんな笑え」製作委員会

 この両者が結びつく。その結びつき方の面白さ、些細な事柄が、雪だるま式に膨らんで、エキサイティングな気持ちをこちらに抱かせていく。せこい人物が人間関係にひびを入れようとしたり、力にものをいわせる者が出てくるシーンもある。あえて「ここはこうだ」と描ききってしまうことなく、こちらの想像力をたくましくさせるところもある。もちろん映画の描き方の常として、太紋の落語が最後まで冴えないまま、ということはない。「うだつのあがっていないとき」と「50歳にして潜在能力に火が付いた状態」の描き方のコントラストも実に美しい。

 監督・脚本は鈴木太一、太紋を演じるのは2000年から04年にかけて蜷川幸雄演出の舞台に立った野辺富三(今回が初主演作品)。共演は辻凪子(『凪の憂鬱』で高崎映画祭最優秀新進俳優賞を受賞)、渡辺哲、片岡礼子、今野浩喜ほか。
劇場情報はこちら  https://minnawarae.com/schedule.html

『みんな笑え』新宿K’s cinemaほか 全国順次公開中 
<配給> ナミキリズム

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