活動弁士・麻生八咫と子八咫による壮大な世界 国境も時空も超えた「浅草活弁祭り2022」が開催!

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■文・写真 / 瀬戸優

ここ浅草は活弁の聖地!すべてはここから始まった

麻生八咫
麻生子八咫

 10月29日(土)、「浅草活弁祭り2022」が浅草の東洋館でおこなわれた。昨年は新型コロナ禍のため中止を余儀なくされたが、今年は活弁士の麻生八咫(あそうやた)・麻生子八咫(あそうこやた)親子に加え、2名のオペラ歌手、3名の海外アーティストも初参加し、観客を大いに喜ばせた。
 麻生八咫は大学卒業後、独り芝居で芸の道を究めた。ある時、活弁士・池俊行の語る『坂本竜馬』に陶酔し活弁士の道へ。子八咫は、幼い頃から父の公演を観て育ち入門。10歳の時、木馬亭でデビューを果たした。親子二代にわたる活弁士は彼らが唯一である。

麻生子八咫
栗田真帆
根岸奏好
左:栗田真帆 右:根岸奏好
左:根岸奏好 右:栗田真帆

 第一部では、子八咫が会場の「東洋館」について語った。東洋館は元フランス座(北野武も下積み時代を過ごした)としても知られているが、さらに歴史をさかのぼれば「三友館」という映画館で、当時は多くの人々がここで活弁映画を楽しんだ。浅草には日本初の常設映画館「電気館」もあった。浅草はまさに活弁の聖地なのだという。
 子八咫が左手を高々にあげながら、「エイシャ(映写)、ヨーイ、スタ―ト!」。この一声から『浅草芸能史』~活弁の聖地、浅草!すべてはここからはじまった~の上映が始まる。明治から今日までの浅草の貴重な映像に子八咫の語りが添えられ、現在の雷門の映像で幕は閉じる。メゾ・ソプラノ歌手の栗田真帆、ソプラノ歌手の根岸奏好による歌声が、大正時代、一大ブームを巻き起こした「浅草オペラ」の世界へと誘う。
 次なる作品は、麻生八咫による『豪勇ロイド(1922年、15分)』。根岸奏好が『草競馬』をのびのびと歌い上げる途中、競馬新聞を持った栗田真帆が登場するというユーモア満載の一幕もみられた。

スクリーンに映るローレ・リクセンバーグ
ジョージ・ケントロス
麻生子八咫
左:麻生子八咫 右:ジョージ・ケントロス
スザンネ・スコッグ

 中入り後の第二部は、スウェーデンから来日した前衛的なバイオリニストのジョージ・ケントロスとサウンドアーティストのスザンネ・スコッグとの共演で、作品は『血煙り高田の馬場』(1928年、10分)。イギリスのメゾ・ソプラノ歌手、現代音楽家でパフォーマーのローレ・リクセンバーグから一昨日届いたという映像を、子八咫が編集した新バージョンだ。映像は精霊と化したローレの顔から始まっていく。子八咫の語りはすでに野太く、伴淳(伴淳三郎)が扮する町人の登場場面では「アジャパー!」と観客のツボを押さえることも忘れない。スザンネはパソコンに向かい、自ら発信するサウンドの絡み具合に集中し、ジョージはスクリーンを睨みつけながら、強くそして時になめらかにバイオリンで応戦している。
 大河内傳次郎が扮する中山安兵衛が全速力で高田馬場に到着する場面になると「高田馬場~。高田馬場~」とアナウンスが入り、鉄腕アトムのテーマソングが流れる。JR高田馬場駅の発車メロディーだ(数日前スザンネが高田馬場駅で録音してきたという)。映画のなかの「高田の馬場」が、現在の「高田馬場」と重なり迫りくる。物語は18人の敵を片っ端から切り倒したところで幕を閉じた。びっくり箱のような活弁映画の世界。異色のアーティストが自由に表現活動をおこなった、新しい「Katusben Art」を目撃してしまったような気分だ。上映終了後のトークで、ジョージは「映像に合わせながら演奏するのは大変だった」、スザンネは「“TA-KA-DA-NO-BA-BA”の音の響きが何とも言えず好きだ」と嬉しそうに話した。

左:麻生八咫 右:麻生子八咫

 最後の作品は『実録忠臣蔵天の巻・地の巻』(1921年、25分)。監督・牧野省三が家屋敷を売り払って制作に挑んだ一世一代の作品。しかし、完成後、火鉢の火がフィルムに燃え移り9割が焼失。天下の男前と言われた俳優・伊井蓉峰との折り合いが悪く、牧野自らが発作的に火中に投げ込んだとも。残った1割のフィルムには物語の重要な部分が奇跡的に集まっていると言う。これは八咫による説明だが、毎回興味深い話が聴けるのも魅了だ。
 いよいよ始まる「天の巻」は、八咫・子八咫による掛け合い活弁、「地の巻」は、八咫による語り。百年以上も前の映像は歳月相応の粗さだが、二人の活弁が人々の心を鷲掴みにし、あっという間にスクリーンの中へと引きずり込んでしまう。映画に命を吹き込みながら、八咫と子八咫は燃え尽きる。麻生八咫、麻生子八咫は言う。「とにかくお客さまに一期一会の活弁を楽しんで頂きたい」と。浅草ならではの心意気。胸が熱くなる。「浅草活弁祭り」には、無声映画とともに歩んできた活動弁士たちの伝統が今もなお引き継がれている。来年は一体何が飛び出すのか。今からこの一声が待ち遠しくてたまらない。
「エイシャ、ヨーイ、スタート!」。