Hakuju Hallの人気シリーズ「第16回 Hakuju ギター・フェスタ 2022」開催。真夏の夜に、アコースティック・ギターの雄大な響きがこだまする
■取材・文 / 原田和典 写真 / 三好英輔
アコースティック・ギターによる、時代も国境も軽々と超えた“音の宴”
去る8月19日から21日にかけて、富ヶ谷・Hakuju Hallにて「第16回 Hakuju ギター・フェスタ 2022原点回帰2 ~ギター・ヒーロー&ミューズ&レジェンドの饗宴~」が開催された。“第16回”とある通り、この「ギター・フェスタ」は、来年で満20周年を迎えるHakuju Hallで行なわれてきた数知れない演奏会の中でも、最も長く続いているシリーズのひとつだ。筆者も何度も足を運んでいるが、いつも感じるのは“ギター好きならだれでも大歓迎”的な風通しのよい、フレンドリーな空気である。名手たちの指使いに見とれ、ギターの形状に目を凝らし(1本1本、微妙な違いがあって、それぞれに魅力的なサウンドを出すのだ)、ホールじゅうに豊かに響き渡るアコースティック・ギターの生音に酔いしれ、各プレイヤーの“選曲の妙”にうなずき・・・と、憎らしいくらい、あっという間に時間が過ぎてゆく。
今年度のプログラムでフィーチャーされたのは荘村清志と福田進一の二大巨頭(プロデューサーでもある)に、カテゴリー越境型の活動を続ける押尾コータロー、そして朴葵姫、猪居亜美、井本響太といった気鋭たち。筆者がのめりこむように聴いた20日は2公演がおこなわれ、午後の部では「旬のギタリストを聴く」という副題のもと、井本響太のプレイにスポットが当たった。現在パリ国立高等音楽院在学中、2021年のアントニー国際ギターコンクール(フランス)では第1位、最優秀課題曲演奏賞、聴衆賞を受賞したという。長い腕でギターを自分の身体の延長であるかのように操り、長い指で粒の揃ったパッセージを導き出す。太く、おおらかな胴鳴りがする。マイケル・ティペット作「ギターソロのためのソナタ“ザ・ブルー・ギター”」における抽象美、いろんな拍子が操られるエドゥアルド・ロペス=チャバリ作「ソナタ 第2番」が放つスリルに酩酊させられた。
夜の部は朴葵姫のソロで幕をあけた。やさしさの中に強い芯を感じさせるトーンの持ち主だ。エイトル・ヴィラ=ロボス作「ショーロス 第1番」等を演奏し、猪居亜美とのデュオによるマヌエル・デ・ファリャ作「火祭りの踊り」(ジャズ・トランペット奏者マイルス・デイヴィスもレコーディングしている)でしめくくった。第2部は福田進一のソロから始まった。なんとも唐突というか印象的なエンディングを持つカルロス・チャベス作「3つの小品」、アストル・ピアソラが書いた唯一のギター独奏曲「5つの小品」などを、2つの楽器を持ち替えながらプレイし、アンコールではブラジルの現役の鬼才セルソ・マシャドの「ポンテイオ」「カンティガ(子守唄)」、さらに4名の共演「フレーボ(1st 福田/2nd 朴/3rd 荘村/4th 猪居)」でギター・ミュージックの深みへと案内した。エグベルト・ジスモンチやファビアーノ・ド・ナシメントのプレイに魅了されている自分には、ことさら嬉しいひとときである。
各奏者の個性が見事に生かされたアレンジの妙、アコースティック・ギターの醸し出す深いニュアンスが快さを倍加させる、まさに充実のギター・サミット。2023年度のプログラムにも、いくら期待しても期待しすぎることはなさそうだ。