映画『1971、ハイジャック事件』 韓国の旅客機が軍事境界線に到達するまであと50分。極限を描き出す航空サスペンス
文:原田和典
「昭和はいい、人情味があった、あの時期に戻りたい」という昭和体験者もいらっしゃることだろうが、私は「否」だ。押し売り、ハイジャック、銀行強盗、身代金誘拐などが消え去ったも同然、という点で、遥かにそれ以降の時代のほうがいい。とくに「ハイジャック」という言葉は、平成・令和の人には通じないのではという気がする。簡単に言えば客として乗り込んだ犯人が機長などを脅して、自分の行きたいところ(それは一般的・政治的に渡航の難しい場所であることが多い)に飛行機を強制着陸させようという行為だ。一人の勝手な考え+暴力的な行動がほかの乗客をすべて巻き込んでしまう悪の極みというべきテロ行為であり、その瞬間から飛行機の乗客には「落ちるかもしれない恐怖」に、「異常なハイジャック犯に殺されるかもしれない恐怖」が加わる。
この映画は1971年に実際にあった事件をモチーフにした一作。スタートから十数分は実に穏やかで勇壮、若者の前向きなパワーを感じさせて、思わず違う映画を見てしまったのかなとタイトルを確認したほどだったが、それは序章に過ぎず、そこからの描写が非常に濃厚でわかりやすい。ハイジャック犯の心情も「罪人にも一分の理」とばかりに描かれているが、爆弾や凶器を持っているとしてもしょせんひとりの庶民であり、いくら白目をむきだして操縦側を脅したところで政治状況は変わるわけがなく、ゆえに「かの国」に到着できるわけがない。犯人、乗客、操縦士の心の動きが非常にスリリングに描かれ、その後、“残された者”の心の通い合いに照準が絞られていくあたりの展開も見事だ。監督はキム・ソンハン、出演はヨ・ジング、ハ・ジョンウほか。11月13日から新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
『1971、ハイジャック事件』
11月13日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:キム・ソンハン
出演:ハ・ジョンウ『1987、ある闘いの真実』 ヨ・ジング「王になった男」 ソン・ドンイル『探偵なふたり』 チェ・スビン「その電話が鳴るとき」
字幕翻訳:福留友子
配給:ツイン
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