映画『見上げてごらん』 夢に賞味期限などあるのか? 迷いながらも未来へと踏み出す大人たちのヒューマンドラマ
■文:原田和典
「裏方の重み」を、やさしくも力強く伝える物語といえばいいだろうか。私も音楽ライターという「裏方」(職業として歌ったり演奏したりしないという意味で)をずいぶんやっているので、うなずかされるところは数限りなくあったし、編集者と齟齬が生まれるところなど、まさに「身に覚え」である。
是枝裕和監督率いる映像制作集団「分福」の気鋭、森本晶一(初監督・原案・脚本)と佐藤快磨が共同で監督。森本監督が、長く助監督を続けた自身の経験から着想を得た物語であるという。「地に足がついている感」の理由はそこにもあるのかもしれない。主人公の土屋は42歳の漫画家アシスタント。受験生の娘と、いまは別居中だが人気声優の妻がいる。マンガ家になる夢を抱いてこの世界に入ってきたのは当然ながら、気づけば20年近く巨匠のアシスタント、つまりは引き立て役をやってきた。もちろん技量があるからこそそれが務まるのだが、にんげんだもの、やはり自分の名前で一旗あげたいという気持ちはある。そのあたりの葛藤、もどかしさに「ああ、そういやおれも」と私はむずがゆくなるほど共感した。もし、自分は全然そうではないという中年が存在するのなら、よほどそのひとは陽の当たる道ばかりを歩んできたんだろうなあ。
劇中では土屋がいかに漫画の歴史に精通し、たくさん読み、つまりは漫画をどれだけ愛しているかもしっかり描かれていて、その熱に、編集者がインスパイアされていくところも大きな見どころとなっている。あとはエンディングまで一直線という感じだが、その後、まるでライブのアンコールのように描かれるシーンがまた粋で、ほほえまずにはいられない魅力を持つ。出演は森田剛、森川葵、川上友里、阿部寛、松本まりか、武田鉄矢ほか。10月30日からテアトル新宿ほか全国順次ロードショー。
『見上げてごらん』
10月30日(金) テアトル新宿他全国順次ロードショー
監督:森本晶一 & 佐藤快磨
出演:森田剛 森川葵 川上友里 / 阿部寛 松本まりか 武田鉄矢
早瀬憩 前田航基 吉田晴登 伊島空 上田遥
配給:ギャガ ©2026「見上げてごらん」製作委員会