アルバム2作同時リリースでも話題を集める瑞姫が、「『浪曲狸』発売記念 瑞姫の浪曲を聴く会」を開催

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■文:原田和典

 10月20日に浪曲アルバム『浪曲狸』と河内音頭アルバム『TAMAKI』を同時発売。新境地を開き続ける瑞姫が、12月21日に東京・浅草木馬亭で「『浪曲狸』発売記念 瑞姫の浪曲を聴く会」を開催した。
 アルバム・プロデューサーであるいちばけい(ザシキレコーズ)のオープニングMCから、すでに、尋常ではない躍動感が放たれる。「浪曲=老人専科」みたいなイメージをもしお持ちなら、もうこの時点でそれはお払い箱に違いない。「初めて来た方は?」という呼びかけに、オーディエンスのほぼ半数が手をあげる。
そして、PAを導入した音響が迫力に満ちている。瑞姫による七色の発声コントロール、ときに低音弦をすりながら絶妙なサポートぶりを行う曲師(三味線奏者)虹友美の卓越ぶり。前半で披露されたのは、三遊亭白鳥作「任侠流れの豚次伝 第一話~豚次誕生秩父でブー。」。瑞姫は全十話に取り組んだ唯一の浪曲師だが、今回は第一話をじっくりと届けてくれた。豚や犬の「鳴き声」と「日本語セリフ」の絶妙な使い分け、母豚と息子豚(豚次は次男坊である)の語らいなどなど、大いに唸らされながら、物語を堪能した。ラスト、母豚が豚次に宝物のネックレスをプレゼントする。なぜネックレスなのか、これはぜひライヴで体感してほしい。第一話のネックレスは、第二話の伏線になっている。
 後半は約40分に及ぶ「浪曲狸」。瑞姫の師匠の師匠にあたる東家楽浦が手掛けた大作だ。両国、本所あたりを舞台にした、「本所七不思議」に基づくストーリーを、下町で生まれ育った瑞姫による“ふし”で楽しめるのが嬉しい。そこには河内音頭の山中一平から受けた薫陶もしっかり盛り込まれている。食料として殺されるかもしれなかった狸を助けたことによって生まれる、さまざまな物事の数々。アルバムと同じ演目であっても、ライヴならではのパフォーマーたちの呼吸の妙が加わる。そこが実演の醍醐味なのだ。