鬼才ランティモス監督の初期金字塔が4Kレストア。映画『籠の中の乙女 4Kレストア版』1月24日公開

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なんという不条理なホームドラマなのだろう! 

文:原田和典

   
 鬼才は初期から鬼才だった、しかもすでに猛烈なアクの強さと臭みを伴っていた。そうなのだ、それがたまらないのだ。
 『女王陛下のお気に入り』、『哀れなるものたち』、『憐れみの3章』など傑作連発のヨルゴス・ランティモス監督の2009年作品で、第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリや、アカデミー外国語映画賞にノミネートされた『籠の中の乙女』が4Kレストア版として1月24日からBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて劇場上映されることになった。筋書きも、撮り方も、描き方も何もかもが並外れている。渡英前、まだ母国ギリシャを拠点にしていた頃の作品。

 主役の家族はギリシャ人で、言葉はギリシャ語だ。この家族、経済的にはなにひとつ不自由していない。その家がそのままひとつのコミューンであり、社会であり、街でもある。父親はいわばコミューンの長であり、母親や子供にも絶大な力を持つ。3人の子供たちは「外の世界は怖ろしい」と洗脳されているので、家から一歩も出ず、家の中が世界のすべてであった。だが生きていれば子供たちも成長し、「性徴」もやってくる。ほかの社会を知らぬまま育った男子ひとり、女子ひとりの「三兄弟」が、当たり前に大きくなってゆく時、何が起こるか? しかもこの父親、言語のセンスが抜群で、その単語の意味を、まったく違ったものとして教え込む。まさに狂気である。が、これはこの壮大な物語のほんのイントロダクションに過ぎないのだ、ということが、徐々にわかってきて、恐ろしいやら「製作の仕方がうまいなあ」と感心させられるやら。動物をあやめる場面も出てくるが、もちろん直接的な描写はなく、見る者の想像に訴えるような形をとっている。英語タイトルはDogtooth(なぜ「犬の歯」なのかは見ていくうちにわかる)、私なら『異常一家の肖像』と題したいぐらいだ。出演はクリストス・ステルギオグル、ミシェル・ヴァレイ、アンゲリキ・パプーリァ、マリア・ツォニ、クリストス・パサリス、アナ・カレジドゥほか。

2009年製作/96分/R18+/ギリシャ 原題または英題:DOGTOOTH 配給:彩プロ 
劇場公開日:2025年1月24日

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